2007/06/26

森美術館「ル・コルビュジエ展-建築とアート、その創造の軌跡-」を見てきた

ル・コルビュジエの建築に「触れる」またとない機会なので見てきました。

「触れる」と言う意味は文字通り「手で触れる」と言う意味。
「パリの自宅アトリエ」、「カップ・マルタンの休暇小屋」、「マルセイユ・ユニテ」が実物大で再現されていてそこを歩いて見て回ることができます。なかなか簡単に海外視察もできないのでこれは貴重な経験です。「自宅アトリエ」などは図面に忠実に微妙な平行四辺形で建てられています。ちょっと見て通り過ぎると普通の長方形かと思いますが手抜きはしていないわけです。ただ、プロムナードを体験できるほど展示スペースが無いのは残念でした。せめて太陽の光は再現していただきたかったと思います。


この展示の中で最初に驚いたことは、家具の造りです。
今売っているル・コルビュジエデザインの家具ではなくて、試作品のイスとか自邸で使用してた一品製作のテーブルが、何と量産を意識した設計になっていることに驚きました。パイプの角のRのパーツがどこも同じパーツを溶接したものだったり、足の床につく部品が汎用品であるのかまたは試作型からできたものか、それが木製であっても引物です。パイプ曲げも、LC4(イス)の微妙なRだけがカッシーナモデルで省かれて直線になっていただけで、どれもベンダーを意識したとしか思えない曲げです。テーブルは贅沢な一枚板のテーブルのように見えて、実は合板ですし、その引き出しをスライドするレールも合板に溝加工してあって別に余計な部品が必要ないものになっています。
どう見ても機械で量産する方法をよく知っている人のデザインなのです。
こう言う事は写真で見ていてもわからないものですね。


この展示の特徴はル・コルビュジエの絵や彫刻が建築模型や図面といっしょに展示されていることです。それを見ると、彼は建築でも絵でも結局同じものを作り出しているのだろうな、と思えてきます。ロンシャンの教会堂で当時のモダニズム建築らしく無さに人はびっくりしたのだそうですが、建築ばかりでなく絵や彫刻も見ていたら相当その印象は変わっていたのではないでしょうか。

よく見ればあの絵にあるバイオリンの曲線が他の(実現しなかった図面も含めて)建築にも少しづつは現れているようです。コンクリートの自由を手に入れたル・コルビュジエではありますが、やはり直線の魔力(効率を求める上でと言うことも含めて)には抗し難く、その結果「四角」が多用されたのかもしれません。しかし「四角」に本質のを見ていたのはル・コルビュジエでなく、見る方だったのだと思います。

直線(単純明快な美しさと効率の良さ)、繰返し(カルピスの包み紙のようなものや比例のようなもの。お店の店頭に小さなキューピー人形とかビニル製の豚が並んでいるだけで視線が引かれます。)、単純さ(把握しやすいモチーフなど)には人間はなぜか心惹かれるものです。そう考えれば皆がル・コルビュジエの「四角」に目を奪われるのもわかりますが、反対にそこに多く注目をしてモダンを論じるのはやはりおかしかったのではないかと感じます。(ちゃんと勉強している人はそうでなかったでしょうけれど。)

前の時代に無い「四角」や装飾の無い「白」、そういった表面的なことに目を奪われなければ、そこにあるのはやや古典的とも思える言葉ですが「比例」なのだと思います。ル・コルビュジエはギリシャやローマのモチーフを使わないパラディオのようです。



そう言えば、ル・コルビュジエ以後の日本の有名建築家の作品はル・コルビュジエのアイデアをモチーフにしているものが多いのにも気付きました。建築家になるような人はル・コルビュジエを熱心に研究していると言うことでしょうか。


ル・コルビュジエについてはいろいろな書物が出版されていて読むのもたいへんな位ですが、それらの中身は二次情報ばかりなので、今回のこの「ル・コルビュジエ展」は貴重な一次情報を提供してくれるものだと思います。

森美術館

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