2009/08/04

箒(ほうき)に乗って


KLCCの上階にあるフードコートから北を見るとこんな建物が見える。
ポストモダン風の外観が、スマトラからのHazeに霞んで少し幻想的に見えなくもない。全然違うものだけれども今公開中のハリーポッターの映画のように箒に乗ってあの屋根の上を飛んでみたらどう見えるのだろう、などと思ってしまう。

全体の趣味は統一されているが屋根の高さがそれぞれ異なっていて少しの複雑さを見せている。そして窓の形は正方形と長方形がいろいろに配置されていて見飽きない。現代的な宮殿のようでいてそうでもなさそうな、想像しても考えてもいったい何だかわからない建物である。

歩いて近くまで行ってみる。KLCCから10分も離れてはいなかった。

近くまで寄ってみるとオレンジの屋根が全く見えなくなって少し残念な感じがする。大きな屋根を持つ日本の家も最近では庭が無いので近づくと壁面にかなり近くなって屋根が見えずその魅力が半減してしまうが、それと同じ現象だ。このビルも屋根が見えなくなると、落ち着いた色の割合普通のビルのようになってしまった。

中なら出てきた人にこのビルは何なのかと訪ねてみたら「普通のオフィスビルだよ。特別なことは何もないよ。あっちのKLCCの方が新しくて良いじゃない」と言われてしまった。近くから見ると確かにそうだと納得せざるを得ないのだが。

ただ、このビルの設計者は相当外観には気を遣ったようで、エアコンの室外機の置き場には工夫が見られた。(写真下段)最近の新しいビルでは空調はセントラル方式なので室外機が見えることは無いのだが、この時代のビルは(KLに多く有る)オフィスでも住戸でも部屋貸しの場合はエアコンは借りた方が用意するらしく、室外機の置き場はバラバラになる。これはビルマネジメントの問題にも絡むのでどうしようもなかったのだろう。そもそもセントラル方式にする発想が無かったのかそう言う設備が入手できなかったのか、それはわからないが。

室外機に対するそうした配慮のおかげでこのビルの外観は守られたようだ。何から引いてきたのはは分からないがこのポストモダンも、最近流行りの妙なモダン(これもクラシックの仲間入りかも知れないけれど)趣味のビル群れが立ち並ぶようになったKLの中で見ると、ホットした気持ちにならないでもないなあと感じる。但し、遠くから見ないとならないが。



こうしたオフィスビルの場合、我々はその外観がどうであろうと (と言うのは単に真っ白で無個性なものであったとしてもと言う意味で) "使える"し、うまく行けばある程度以上の価値を持つことができるのを知ってしまっている。だから周囲に何の配慮もせずに好き勝手にもデザインできるのだし、そんな事せずとも(例えばユニットを積み上げるような設計をするだけで)建物として成立させることもできる。実際、多くのビルがそうして出来上がっていて、それで何の不都合もない。たまに建築家や研究者や評論家がダメ出しするだけのことだ。

"経済性優先"を言うことで環境や外観に対する配慮ができないと言うのであれば、その考えは逆に"経済性優先vsデザイン"の対立を肯定している、つまりどちらの考えも同じ直線上にあるのだと思う。デザインにおける投資に対する見返りが少ないか全くないと認めることになると思うのだ。そんな事を認めて議論の矛先を施主側の姿勢であるとか経済原理の悪弊に求めるのであれば、(とりわけ日本には)建築家は不要と言うことになるのではないだろうか。

そう認めたくはないし、認めなければならないにしてもデザインと経済が共存、共生するのを諦めてしまうのはまだ早いのだと思う。諦めるには未だその試みが少な過ぎるだろう。我々は未だ何もやっていない。



建物の名称:MeganAvenueII
用途:オフィスビル
場所:Jalan Yap Kwan Seng

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